今回は遠隔服薬指導について、その概要や特徴、メリット、デメリットを詳細に解説していきます。
本記事を執筆するにあたり、実際に遠隔服薬指導を実施しているきらり薬局に、現役薬剤師である私が赴き、インタビューをしてきました!
今回、福岡市にある、きらり薬局にお邪魔をして、遠隔服薬指導経験者である薬剤師の原さんにお話しを伺いました。
以下、目次となります。
- 遠隔服薬指導とは?
- 遠隔服薬指導の流れは?
- 遠隔服薬指導の実証実験や立ち上げ経緯・遷移について
- 遠隔服薬指導のメリット
- 遠隔服薬指導のデメリット
- 遠隔服薬指導の経験者にインタビュー
- 遠隔服薬指導を経験した薬剤師からのメッセージ
遠隔服薬指導とは?
薬剤師が患者さんに対して、正しい薬の飲み方や、注意点を説明をする事を「服薬指導」と呼びます。
通常、患者さんが薬局に出向いて、対面で服薬指導を実施する事が一般的です。
しかし、遠隔服薬指導では、患者さんが自宅にいながら、薬剤師の服薬指導を受けれる医療サービスで、オンライン医療の一環として、近年注目を集めています。
薬剤師業界としても、遠隔服薬指導はオンライン診療と合わせた一気通貫の医療を提供出来る新たな医療の形として、利用者側にも、実施する薬剤師側にも期待が高まる業務です。
遠隔服薬指導におけるルールの基本的な考え方は以下になります。(参照:厚生労働省への提出資料)
- 患者側の要請と患者・薬剤師間の合意
- 初回等は原則対面
- かかりつけ薬剤師による実施
- 緊急時の処方医、近隣医療機関との連絡体制確保
- テレビ電話等の画質や音質の確保
また、2020年度調剤報酬改定にて、在宅患者オンライン服薬指導料が新設がされ、既に国も本格的に動き出しています。
遠隔服薬指導の流れは?
遠隔服薬指導を行うためには、まず遠隔服薬指導事業実施要綱に基づいた薬局の登録が必要です。
- テレビ電話が出来るデバイスを準備する事
- 利用者(患者さん)からの申し出がある事
- 遠隔服薬指導に関する手順書を作成する事
- 指導報告内容をフィードバック出来る連携を医療機関と取れている事
- テレビ電話にて送受信された映像または音声を記録する事
など、薬局側は入念な準備を行います。登録完了後、以下のように、遠隔服薬指導の実際します。
- オンライン診療が行われる
- 特定処方箋の発行
- FAXで薬局に送られる(特定処方箋原本は郵送)
- 特定処方箋が届き次第、遠隔服薬指導を開始
- 薬歴記載を実施して、連携している医療機関にフィードバック
上記の流れから分かるように、オンライン診療を実施しているクリニックの協力も必須となります。
私が見学した、きらり薬局名島店では、月に1回、月曜日に医師の問診をしてから、同じ週の水曜日に遠隔服薬指導を行っていました。
遠隔服薬指導の実証実験や立ち上げ経緯・遷移について
①:国家戦略特区の3つの県で実証実験が開始
服薬指導は薬機法で「対面」による実施が義務付けられています。
2016年、国家戦略特区法の一部改正に基づいて、薬剤師による対面での服薬指導義務の特例が認められるようになりました。
そして、2017年11月に国家戦略特区の実証実施に関する通知を、厚生労働省が発出、一気通貫の医療として、遠隔服薬指導が実証実験をする運びとなりました。
そうした中、全国で3つの県(福岡県、愛知県、兵庫県)でオンライン服薬指導事業の計画が認定され、実施に踏み切ります。
(参考:オンライン服薬指導の実証実験開始へ、国家戦略特区の愛知県、福岡市、養父市で|医療維新 - m3.comの医療コラム)
②:福岡市のきらり薬局が名乗りを上げる
2018年6月に福岡市の保険調剤薬局、きらり薬局が名乗りを上げて、遠隔服薬指導の実施に踏み切ります。
きらり薬局では元々多く在宅患者さんを抱えていた事、採算の合わないエリアに対しても、諦めずに薬を届け続けた事、対象となる特区のエリアであった事など様々な要因が関係し、実証実験の切符を手にしました。
その後、きらり薬局は2018年7月に全国に先駆けて、日本で初めてとなる保険適応による遠隔服薬指導を実施しました。
きらり薬局の詳細については、以下の記事に詳しくまとめているため、合わせて参考にして下さい。
③:都市部でも遠隔服薬指導が可能になる
そんな中、都市部では仕事や育児で忙しい40代、50代の層をターゲットにして、遠隔服薬指導の規制緩和が始まりました。
2019年9月30日に厚生労働省が、国家戦略特別区で、遠隔服薬指導をOKとして、一定条件を緩めたのです。
以前は、特区の中で、薬剤師や薬局数が少ない過疎地区だけでしたが、近年では都市部でも遠隔服薬服薬指導が行われつつあります。
一例として、大手調剤薬局である日本調剤が、都市部で遠隔服薬指導を実施しており、現役薬剤師からの関心も高まっています。
(参考:「都市部での遠隔服薬指導」、国家戦略特区で解禁|医療維新 - m3.comの医療コラム)
④:新設!在宅患者オンライン服薬指導料
2018年度診療報酬改定でも、オンライン診療が評価されている背景もあり、2020年の診療報酬改定では「在宅患者オンライン服薬指導料」が新設されました。
主な算定要件と対象となる患者さんは以下です。
【算定要件】
- 情報通信機器を用いた服薬指導を行った場合(訪問薬剤管理指導と同日に行う場合を除く)
- 患者1人につき月1回まで
- 保険薬剤師1人につき、週10回に限り算定(在宅患者訪問薬剤管理指導料と合わせて週40回に限り算定)
【対象患者】
- 在宅時医学総合管理料に規定する訪問診療の実施に伴い、処方箋が交付された患者
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料を月1回のみ算定している患者
今後も全国的にも、遠隔服薬指導の普及が拡大していくと考えられています。
遠隔服薬指導のメリット
遠隔服薬指導には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
本項では、実際に遠隔服薬指導を行っている薬剤師の原さんにヒアリングしつつ、解説していきます。
①:患者さんの生活を確認しながら服薬指導を行える
遠隔服薬指導の実践者である、きらり薬局の薬剤師、原さんにお話しを伺うと、遠隔服薬指導ならではのメリットが見えてきました。
それは、画面越しから患者さんの生活模様が垣間見れる点でした。
ある日、原さんはこのような服薬指導を体験されたそうです。
「服薬指導中に、リアルタイムで患者さんがご飯を食べていました。」
画面を見ると、利用者が家族団らん、食卓を囲って、ご飯を食べていたそうです。これは対面では、絶対に発生しない事例になりますし、医療従事者の視点で考えると、
- 食欲があるかどうかが視覚的にわかる
- 食事による悪心嘔吐の有無
- 咀嚼と嚥下の是非
など、生活背景を読み取りながら、患者さんの様子を知る事が出来るメリットがあります。
遠隔服薬指導は、リアルタイムに患者さんを確認出来、服薬後のフォローや副作用の確認もしやすい利点があります。
②:薬の使用量を直接確認出来る
遠隔服薬指導では、テレビ画面を通して、薬の使用量、つまり「残薬」を直接現物を見ながら、チェックする事が可能になります。
例えば、原さんのお話しの中で、実際に患者さんが目薬を持ってきて、「このくらい!」と画面を通して、残量を見せてくれた事もあったそうです。
このように、患者さんが、薬をしっかりと使用している事実を、薬剤師と共有して、目で確認出来る点は、遠隔服薬指導の大きなメリットだと言えます。
③:働き方や時間の使い方が変わる
遠隔服薬指導によって、訪問調剤における、薬局から患者さんの家までの移動時間が浮くので、業務の効率化が図れます。
きらり薬局の実例を元に説明すると、車で片道40分程度かかる患者さんのお宅にも、遠隔で業務を行えば、約10分で服薬指導を終える事が可能になりました。
また、遠隔服薬指導を行って、1ヶ月に2回の訪問を月1回に減らし、余った時間を他の患者さんの訪問へ当てたりと、効率的に業務を行うようになりました。
時間的なメリットが大きい点も、遠隔服薬指導の良いところです!
④:デバイス操作は簡単ですぐに慣れる
(画像:遠隔服薬指導のデバイス写真)
「遠隔服薬指導」とワードから、多くの薬剤師は高いハードルを想像しがちですが、実際には通常の対面服薬指導と何も変わらない、薬剤師の一般業務です。
また、機械操作が苦手な薬剤師に対しても、分かりやすいように設計されており、シンプルな操作で、すぐに患者さんとコミュニケーションを取ることが出来ます。
私は実際に、遠隔服薬指導のデバイスを体験しましたが、操作も簡単で、すぐに馴染むことが出来ました。
遠隔服薬指導のデメリット
上記のようにメリットが多い遠隔服薬指導ですが、もちろんデメリットも存在します。
本項では、その中でも特に注意してもらいたいデメリットについて解説していきます。
①:機器トラブルのフォロー
きらり薬局で遠隔服薬指導をしている患者さんは、80代のご夫婦で、iPadを使って、画面を立ち上げています。
もちろん娘さんのフォローもありますが、薬剤師の原さんからは「iPadのアップデートの手順がわからず、フォローが必要な場面もあった」と話されていました。
普段からスマホに触れていない高齢者にとっては、デバイスのアップデートは、やや難しいと感じてしまうのが現状です。
今後は、高齢でなくても、手のしびれや震え、視野が悪い患者さんなど、機器の操作性に関しても、課題が浮き彫りになるでしょう。
②:配達コストがかかる
薬剤師であれば、薬の配達や品質確保を確認する事も大切です。
オンラインによる服薬指導では、直接、薬剤師から薬を渡しません。そのため、患者さんの自宅まで薬がしっかりと届いているのかを、見届ける必要が出てきます。
きらり薬局でも薬の配達に関して、様々な検討を行ったそうです。
大手配送業に見積もりを取り、採算が取れるのかどうか、そして「品質管理は確保出来るのか?」「誰がどう渡すのか?」「時間や温度は?」「ドローンでの配送は可能?」など、試行錯誤を繰り返しました。
結果として、現在、地元医薬品卸業者の配送シェアリングシステムを活用して、品質を守りながら、患者さんに薬を届ける案に落ち着きました。
しかし、今後、配達コストはどうなるのかは、まだ課題として残っているそうです。
③:プライバシー流出の恐れ
画面越しから患者さんの家の中が見えてしまう遠隔服薬指導は、利用側のプライバシー流入、そして、実践側のコンプライアンス遵守が必要になってきます。
訪問調剤をする際にも、「相手のお宅に入ること=プライバシーの侵害」と感じる患者さんも一定数存在しています。
仮に、私が遠隔服薬指導の利用者であった場合、部屋の情報は、テレビ画面に映らないように配慮しますし、若い女性など、プライバシーな空間を見られたくない方もいるはずです。
なにより、薬局側がコンプライアンスを遵守しなければ、小さなキッカケから、大きな問題に発展をして、薬局や薬剤師の信用を失ってしまう可能性も出てきます。
ネットのインフラが整備された現代では、利用者、実施者、双方のITリテラシーも試されます。
ネットを介して指導を行うので、プライバシーへの配慮は、より一層注意をする必要があると感じました。
遠隔服薬指導の経験者にインタビュー
現役薬剤師のキクオが、きらり薬局にて遠隔服薬指導を実施している原さんに様々なインタビューをしました!
1:遠隔服薬指導の実践回数や時間は?
今までに遠隔服薬指導を何回、行ったのでしょうか?
遠隔服薬指導は今までに17回実施しており、毎回、私が担当しています。
遠隔服薬指導は、1回どのくらいの時間が掛かりますか?
10分程度です。
2:遠隔服薬指導に向いている薬剤師・向いていない薬剤師
遠隔服薬指導はどんな薬剤師に向いていると思いますか?
通常の服薬指導が出来れば、誰でも出来ます。また、働く時間に制限がある(ママ薬剤師やパートの薬剤師)や車が運転出来ないなどの理由で、訪問に行けない薬剤師については、働き方の幅が広がると感じています。
逆に、遠隔服薬指導に向いていない薬剤師はどういう方ですか?
特にありません。誰でもできると思います!
3:その他、遠隔服薬指導で気づけたことなど
遠隔服薬指導だからこそ、気付けた事はありますか?
患者様の食事風景を映してもらい、食事量を確認する事が出来ました。「食欲がない」と訴えていたのですが、実際には私よりも食べていると視覚的にも把握する事が出来ましたね。
デバイス使用中に、お互いに声が聞き取りにくい事はありましたか?
取材陣のマイクによるハウリングが影響した時もありますが、実践では、聞こえにくい事はありませんでした。
遠隔服薬指導を経験した薬剤師からのメッセージ
以下、実際に遠隔服薬指導を実践している、薬剤師の原さんからのメッセージとなります。
あつこ@緩和認定薬剤師|きらり薬局エリア長 (@takoyaki8o_o8) | Twitter
遠隔服薬指導は外来で投薬することや、訪問で指導する事と何ら変わりません。
テレビ電話を通じて、しっかりと相手の表情がわかります。また、周りに映る背景からも患者さんがどのような場所にいるのかわかり、生活状況を知る上で、遠隔服薬指導ならではの貴重な情報を得ることが出来ます。
初めて対応する患者さんでも、臆することはないです。
薬剤師は健康増進に寄与する社会的責任を担っています。対面であれ、画面越しのオンラインであれ、患者さんに薬を理解して正しい服用をして頂くことが大切です。
まとめ
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。遠隔服薬指導について、きらり薬局へのインタビューを通して、詳細に説明していきました。
遠隔服薬指導は、まだまだ走り出したばかりです。
遠隔服薬指導はメリットが多い一方、これから起こるデメリットにも対応しながら、進んでいかなければいけません。
今回のインタビューを終えて、薬を渡す行為、届ける行為だけが、薬剤師の使命ではないと再確認する事が出来ました。
対面でも遠隔でも、薬剤師は、これからも愚直に目の前の患者さんの服薬支援やフォローをする事が重要だと考えます。
また、きらり薬局では、素直で直向きな薬剤師を募集しています。
訪問調剤にも強みがあるので、在宅医療を深く学びたい薬剤師にとっては、向いている薬局となっています。
もし、きらり薬局に興味がある薬剤師の方は、私のTwitterアカウントにDM、若しくは下記のメールアドレスまで、ご連絡下さい。その他、転職や働き方の相談もOKです。
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最後になりましたが、インタビューを受けて下さった、きらり薬局代表の黒木様、原様、きらり薬局名島店の皆様、きらり薬局に携わる全ての方に感謝致します。
それでは、また!
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