今回は零売について、現役薬剤師の筆者が詳しく解説していきます。
また、零売と処方箋販売の両方を実践している、ハイブリット型薬局である、セルフケア薬局の代表にも直接インタビューした為、そちらも併せて参考にして頂ければ幸いです。
以下、目次となります。
- 零売とは?
- 零売の販売ルールについて
- 零売のメリット
- 零売のデメリット
- 零売可能な医薬品
- 零売と処方箋需要のハイブリット型薬局「セルフケア薬局」の魅力について!
- 零売薬局が向いている薬剤師
- 零売薬局が向いていない薬剤師
- 零売薬局「セルフケア薬局」の社長にインタビュー!
零売とは?
零売(れいばい)とは医療用医薬品を販売する1つの形態で、必要量を分けて販売をすることから「分割販売」とも呼ばれます。
2005年に厚生労働省が「処方せん医薬品等の取り扱いについての通知」を出しており、「処方箋に基づかない販売」いわゆる零売を条件付きで認めた背景がありました。
より一般的な目線の説明をすると零売は「薬局が処方箋なしで医薬品を販売をする行為」になり、医療費削減の観点からも、現在注目されつつある販売形態の1つです。
本記事では日本で初めての零売薬局のチェーン運営をしている「セルフケア薬局」の服部社長にお話を聞きにいきました。
零売の販売ルールについて
「処方せん医薬品以外の医療用医薬品の取扱いについて」より、販売する際のルールが定められています。
- 必要最小限の数量を販売する
- 調剤室又は備蓄倉庫において保管をして、分割を行う
- 販売した場合は品名、数量、販売の日時、患者の氏名及び連絡先等を書面に記載して、2年間の保存を行う
- 患者さんの薬歴管理を実施する
- 薬剤師が対面により販売する
薬剤師主体で薬を販売して、あくまでも「必要最低限」の量を販売をすることが目的です。もちろん、薬の重複投与や相互作用も確認する必要もあります。
その他にも、零売を実施する薬局が注意するべき項目があります。
- 全ての医療用医薬品について、一般人を対象とする広告を行わないこと
- 服薬指導を十分に実施すること
- 販売に当たって外箱の写しなど新薬事法第50条に規定する事項を記載した文書や同法第52条に規定する添付文書又はその写しの添付を行うこと
以上の事をクリアして、初めて零売を実施する事が可能になります。
零売のメリット(利用者目線・薬局目線)
先ずは利用者の視点から零売のメリットを説明していきます。
金銭的な負担が少ない
必要最低限の量を販売をする零売は、利用者にとって金銭的負担を軽減させるメリットがあります。
具体的には、病院受診から薬局を利用する場合は、初診料から処方箋料、その他にも薬剤管理料などの保険請求の部分が利用者の負担になります。
しかし、零売では、診察料や技術料がかからないので、その分、お得に医薬品を購入出来ます。
薬の量も必要最低限になるので、多額のお金も必要ありません。
素早く薬をもらうことができる
待ち時間が長いクリニックや調剤薬局を利用している方にとって、処方箋なしで医薬品を受け取れる零売は、時間短縮の面から大きなメリットがあります。
一例として、セルフケア薬局では来客をしてから、約5分程度で薬を購入する事が可能です。
もちろん、スピードだけが零売のメリットではありませんが、移動時間や手間を考えると、馴染みの薬局だけに足を運んで、薬が貰えた方が断然に楽と言えるでしょう。
(一方で、薬剤師がしっかりと傾聴を行って、何かがあった場合には受診の推奨を利用者にお伝えする場合もあります。)
零売は日々に追われている忙しいサラリーマンに向いた販売形態だと言えます。
次に零売を運用する薬局側のメリットを説明していきます。
地域医療に貢献出来る
零売はあくまでも患者さんが決める1つの選択肢ですが、その選択肢が1つ増えるだけでも、薬剤師目線の貢献が出来たり、その地域に住んでいる人の「困った」を助けることができます。
今後、地域の相談窓口として、重要な役割を担うことが予想されます。
経営基盤を1つ増やせる
処方箋だけに依存をしている薬局は、その収益源がなくなった時に、大打撃を受ける可能性が高いです。
しかし、薬局利用者の訪問回数を増やす事に成功をしているセルフケア薬局では、住民の口コミから他の利用者に繋がるケースや、新規の顧客からリピーターになるケースもあり、より収益性が高まります。
もちろん、上述したように零売は選択肢の1つに過ぎないですが、薬剤師業務である、処方に基づく調剤監査と、零売を組み合わせるハイブリッド型の薬局を構築することにより、時代の変化にも強い経営を行うことが可能です。
零売のデメリット
以下、零売のデメリットについて、詳しく説明していきます。
悪用される可能性がある
零売について、例えば、今後ビタミン剤や漢方薬を個人売買をするために購入する方が出てくる可能性もあります。
上記については、服部社長も懸念しており、以下のようにコメントしています。
「確かに零売を展開をするとリスクがあるかもしれない。だからこそ、法的整備が必要になります。また、私達は厚生労働省から零売を広めてもらうように、働きかけており、今はその準備として零売協会やガイドラインも展開しています。」
零売を悪用されないように薬局側もしっかりと対応する必要があります!
郵送販売は不可能
ネット環境やオンライン診療が広がってきている医療業界ですが、零売に関してはネットで購入後、店舗からの郵送は、制度上、不可能です。
違法な使い方をしてしまう利用者もいるかもしれませんし、適した使用方法を遵守出来るかも不安材料です。
もちろん、「この薬はある?」と電話相談やネットを介した相談は可能ですが、そこから郵送で薬を配達する行為は零売では出来ません。
零売はあくまでも薬剤師が対面で、分割販売をする制度になっています。
零売可能な医薬品を紹介
零売が可能な医薬品は以下になります。
- 保湿剤
- ビタミン・アミノ酸・鉄剤
- 痛み止め
- かぜ薬
- 抗アレルギー薬
- ステロイド軟膏
- 胃腸薬
- 下剤
- 点眼薬
- 水虫・カンジダの薬
- 痔の薬
- 脱毛症の薬
- 止血剤
- 漢方薬
現在では医療用医薬品約15,000種類のうち、処方箋なしで購入出来る薬は約7,000種類あります。
よく出る薬として、保湿剤やビタミン剤、痛み止めやかぜ薬が挙げられます。
零売と処方箋のハイブリット型薬局「セルフケア薬局」の特徴やメリットについて!
本項では、零売と処方箋ありの対応、どちらも扱うハイブリッド型薬局である「セルフケア薬局」について、様々な魅力を紹介していきます。
①会話から始まる薬局
私が働く薬局では、利用者に対して、処方箋ありきの対応になっている事がほとんどです。
しかし、今回見学をさせて頂いた「セルフケア薬局」では、会話から始まる薬局として、問診票にも工夫が施されていました。
セルフケアに関する質問を網羅しているのはもちろん、事前説明の段階で、零売のルールを逸脱しない内容を盛り込んだり、購入目的によっては販売をしない説明が明記されていました。
「ファーストコンタクトを薬局に・・」を強く意識していることが分かりました。
②クリニック側に感謝される薬局
私は「門前の医師は、セルフケアや零売に関してあまり良く思っていないのでは?」と、ネガティブな考えがありました。
なぜなら、処方権を持つ医師の治療方針にケチを付けてしまうのではないか、また、薬剤師がミニドクター的な存在になってしまわないか危惧していたからです。
しかし、セルフケア代表の服部社長より、医師全員と直接会話をして零売の承諾を得ている事、零売を実施して、何かあった時には門前医に連絡を取り、連携が円滑にいっている事例が多くあることなどが分かりました。
また、医師会や薬剤師会の関わりから立場も配慮して運営をして、1つ1つ信頼を積み上げることにより、クリニックからも感謝の声も多く寄せられています。
③対人業務のスキルを上げることができる
患者さんが処方箋なしでセルフケア薬局に来局した時、そこには薬剤師のあなたを求めて足を運んで来てくれた事実があるはずです。
そのため、他の業務形態以上に、対人業務の重要性を改めて実感することが出来、薬剤師としてのスキルを学べる点は、セルフケア薬局の魅力の1つと言えるでしょう。
さらに、零売のノウハウを学べる点もメリットの一つですね!
④医療費削減に貢献している
セルフケア薬局では、零売を通して以下の貢献しています。
- セルフケアによる医療費削減
- 零売によって医療費削減の選択肢を増やす
- 地域住民に医療費の大切さを理解させる事が出来る
一つ一つは小さいことですが、「塵も積もれば山となる」ということわざの通り、医療費削減における諸問題にも、真摯に取り組んでいます。
診療を受けて薬を貰うよりも、値段が安くなり、医療費の圧縮に繋がります。
零売薬局が向いている薬剤師
では、実際に零売薬局が向いている薬剤師はどんな方でしょうか。以下、具体的に解説していきます。
①新しいことにチャレンジしたい薬剤師
零売薬局自体、まだ広まっていない新しい試みです。
そのため、今後も様々な課題が出てきますが、それらに当事者として関わり、現場を支えたいと考えている薬剤師や、相談を受ける事が好きな薬剤師に特に向いています。
経験に応じて年収アップも考慮される点も魅力で、チャレンジ精神旺盛な薬剤師にマッチした薬局と言えるでしょう!
②今の薬剤師の仕事がつまらないと感じている薬剤師
調剤だけ、監査だけ、投薬だけ。毎日が同じルーティンの場合、どんな仕事でも飽きが生じます。
それら業務がこの先10年、20年続く人生に不安を持つ薬剤師は、セルフケアの業界に参入してみるのも1つです。
利用者から頼りにされている実感は湧きやすいですし、これから大きくなっていく薬局をフォローしていく経験も培えるでしょう。
また、ハイブリット型の薬局では、従来通りの薬剤師業務を行う事が可能なため、以前の知識を生かしつつ、零売についてもスキルも高めることができます。
零売薬局が向いていない薬剤師
では、どのような薬剤師が零売薬局に向いていないのでしょうか。具体例を挙げて説明していきます。
①コミュニケーションが苦手な薬剤師
対人業務の重要性が増している薬局業界では、コミュニケーション能力が大切な要素の1つです。
もちろん、人によってコミュニケーションの上手い、下手はあるため、セルフケア薬局では零売のマニュアルを作成しており、それに沿って業務を行います。
そのため、基本的な対応ができれば問題ありませんが、やはり相手の気持ちをきちんと読めない方は、零売に向いてるとは言い難いです。
②固定概念を持った薬剤師
- 「薬剤師会や医師会と揉めたりする可能性があるから、自分はその仕事をしたくない。」
- 「薬剤師は処方箋がなければ活躍出来ない。」
上記のような既存の固定概念を持つ薬剤師は、零売薬局に向いているとは言い難いです。
新しい事業をする際は、周りから反発を受けるのが常ですが、それら固定観念に疑問を持てる方が向いていますね!
零売薬局「セルフケア薬局」の社長にインタビュー!
零売薬局である、セルフケア薬局を経営している、服部社長に様々な疑問を直接聞いてみました!
ぜひ、参考にしていただければ幸いです!
Q:現在セルフケア薬局は何店舗あるのでしょうか?
現在7店舗です。東京の新宿や池袋にもあります。今後は大阪にも出店しようと思っています。
Q:セルフケア薬局をやろうと思ったきっかけは?
地域の貢献です。会話から始まる薬局を作りたかった
Q:具体的にどんな会社を目指している?
上場を目指します。店舗数として100店舗をハイブリット(保険調剤+零売)、150店舗を零売薬局、合計250店舗を数的な目標にしています。
Q:どうやって零売を広めていったのですか?
会話です。1つ1つ、1店舗ずつ医師と面談と会話をしました。話せば前向きに理解をしてくれますし、クリニック側にもメリットがあります。
Q:零売協会の理事ということで、どんな活動をしているのでしょう?
零売による啓蒙活動が主です。目標は厚生労働省から零売のグレーゾーンを明確化してもらうためが1つの目標になります。そのためには、しっかりと地域や医師、薬剤師会にも理解が必要ですし、誠実に対応していきます。
Q:これから求められる薬剤師は?
なんでもやるジェネラリストな薬剤師です。零売もOTCも在宅も一般的な薬剤師業務もする。なんでもチャレンジをする薬剤師ですね。年収(対価)もハッキリと2極化すると考えています。
お忙しい中、お答えいただき、本当にありがとうございました!
零売薬局「セルフケア薬局」の社長からメッセージ!
零売をきっかけに薬剤師の価値を向上させる事を目指します。
その背景には私たちの先輩方が調剤薬局を6万店まで増やしてくれた事が大きいと思っています。そして先輩からのバトンを引き継ぎながら、薬剤師の地位向上、下の世代へと繋げていく必要があるでしょう。
私は「薬剤師ってかっこいいよね!」と言われる未来を作りたいですし、上場に向けて1歩ずつ準備をしていきます。
この度は、インタビューをして頂きまして誠にありがとうございました!
Twitter:https://twitter.com/GOOD_AID
HATTORI YUTA/服部雄太
まとめ
ここまで読んで頂きまして、ありがとうございます!
本エントリーを通して、零売や、薬局のあり方、薬剤師のあり方を少しでも考えて頂けたら、嬉しいです。
零売は少々マイナーな分野であり、医師会や薬剤師会からは、もしかすると良くは思われない面もあるかもしれません。
しかし、セルフケア薬局は、医療費削減にも貢献している薬局だと感じましたし、薬剤師の働き方も考えさせられました。
少しでも零売に関して認知が広がってくれたら幸いです。また、零売に関して興味がある方は是非、服部社長に連絡をして頂ければと思います。
それでは、また!
本記事の執筆にあたり参考にしたサイトは以下となります。